控訴審判決

提供:裁判コンテンツ
移動: 案内, 検索
平成19年10月19日判決言渡 同日原本交付 裁判所書記官
平成19年(ネ)第989号 損害賠償請求控訴事件
原審・大阪地方裁判所平成17年(ワ)第2379号
口頭弁論終結日 平成19年8月31日

目次

主文

1 原判決中,被控訴人大成建設株式会社に関する部分を取り消す。
2 被控訴人大成建設株式会社は,控訴人に対し,10万円及びこれに対する平成16年12月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 控訴人のその余の控訴を棄却する。
4 被控訴人北口末広に関する控訴費用は控訴人の負担とし,被控訴人大成建設株式会社に関する訴訟費用は第1,2審とも同被控訴人の負担とする。
5 この判決2項は仮に執行することができる。

事実及び理由

第1 控訴の趣旨

1 原判決を取り消す。
2 被控訴人北口末広は,控訴人に対し,10万円及びこれに対する平成17年1月6日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 主文2項同旨
4 訴訟費用は第1,2審とも被控訴人らの負担とする。
5 仮執行宣言

第2 事案の概要

1 事案の骨子,訴訟経緯

 本件は,控訴人が,①被控訴人大成建設株式会件(以下「被控訴人会社」という。)に対し,同被控訴人と控訴人との間で締結された,被控訴人会社で実施される研修会において,控訴人が講師として講演を行うことを内容とする契約(以下「本件契約」という。もっとも,この契約の当事者については,後記のとおり争いがある。)を,被控訴人会社から一方的にキャンセルされたとして,本件契約の債務不履行に基づき,講師料相当の10万円の損害賠償を求めるとともに,②被控訴人北口未広(以下「被控訴人北口」という。)に対し,同被控訴本が,被控訴人会社の社員2名及び上記研修会で控訴人と同じく講師をするよう依頼されていた柏木宏(以下「柏木」という。)に対して,控訴人の名誉を毀損する発言をしたとして,不法行為に基づき,慰謝料10万円の損害賠償を求めた事案である(附帯請求は,いずれも,訴状送達の日の翌日から各支払済みまで年5分の割合による遅延損害金請求である。)。
 原審裁判所は,控訴人の請求をいずれも棄却した。控訴人はこれを全部不服として本件控訴を提起した。

2 争いのない事実等(争いのない事実及び証拠によって容易に認定できる事実。なお,後者については末尾に証拠を掲げる。)

(1)ア 控訴人は,大韓民国の国籍を有し,わが国に居住している者である。
 在日コリアン人権協会(以下「人権協会」という。)は,平成7年10月に設立された民族差別撤廃のための運動体である。控訴人は,平成7年から平成13年まで人権協会の会長を務め,同年から呪在まで人権協会の副会長を務めている。(甲3,控訴人本人)
 KJ同友会は,平成5年10月に設立された在日コリアン(朝鮮半島にルーツを持つ者で日本国籍を有する者を含む。)商工業者の団体であり,椌訴人は,以前,KJ同友会の会長を務めていた。(甲3,弁論の全趣旨)
イ 被控訴人北口は,近畿大学の教授であり,部落解放同盟大阪府連合会の書記長を務めている者である。被控訴人北口は,上記立場から,大阪同和問題企業連絡会(部落差別事件を契機に設立された企業組織で,部落差別をはじめとする人権課題に取り組む企業連絡会であり,大阪の一部上場企業を中心に約150社が加盟している。現在の名称は,大阪同和・人権問題企業連絡会。以下「連絡会」という。)ないし大阪企業同和問題推進連絡協議会(大阪府下の8000社が加盟する協議会。現在の名称は,大阪企業人権協議会。以下「協議会」という。)から助言ないし相談を求められることがあった。(乙2,被控訴人北口本人)
 被控訴人会社は,建築工事,土木工事,機器装置の設置工事,その他建設工事全般に関する企画,測量,設計,監理,施工,エンジニアリング,マネージメント及びコンサルティング等を目的とする株式会社であり,上記連絡会に加盟している会社である。(乙2,被控訴人北口本人)
ウ 柏木は,大阪市立大学の教授であり,民間非営利組織(NPO)と人権問題を中心に,教育,研究活動に従事する者である。柏木は,過去の人権問題に関わる活動を通じて,控訴人及び被控訴人北口と交流があった。(甲2,証人柏木)
(2)被控訴人会社は,平成15年12月ころ,控訴人及び柏木を講師として,人権に関する研修会(以下「本件研修会」という。)を行う予定であったが,同研修会は中止となった。(証人村瀬,控訴人本人)
(3)柏木は,平成16年2月17日,大阪市浪速区久保吉所在の大阪人権センターにおいて,被控訴人北口,被控訴人会社関西支店の総務室長である藤田某(以下「藤田」という。)及び同総務室人事係である村瀬泰朗(以下「村瀬」という。)と,本件研修会が中止となった経緯の説明を求める等のために会合をもった(以下「本件会合」という。)。

3 争点及びこれに対する当事者の主張

 原判決「事実及び理由」中の「第4 争点及びこれに対する当事者の主張」1,2欄に記載のとおりであるから,これを引用する。

第3 当裁判所の判断

1 認定事実

 上記第2の2の争いのない事実等に,証拠([[甲1号証|甲1]ないし11乙1ないし6の1ないし丙1,証人柏木,同村瀬,被控訴人北口,控訴人各本人)及び弁論の全趣旨を総合すると,次の事実が認められる。
(1)被椌訴入会社は,被控訴人会社の神戸支店で平成9年ころに発生した差別問題を巡る被控訴人会社と人権協会の事実確認会を契機として,平成11年ころから,毎年1回,被控訴人会社の本店において,人権協会の実質的な指導の下で,在日コリアンの人権問題に関する学習会を実施するようになった。
 平成11年7月3臼,被控訴人会社の本店において,上記学習会が開催されたが,控訴人が,講師として講演した。その際,控訴人は,被控訴人会社の担当者から,この講演の講師料の支払方法を尋ねられ,この講師料を人権協会を支える資金とするため,振込先を人権協会にしてほしいと返答した。
 そして,これにそって,被控訴人会社から,同音葎師料15万円が人権協会の口座に振り込まれた。
 平成12年7月28日及び平成14年3月15日にも,被控訴人会社の本店において,上記学習会が開催され,いずれについても,控訴人と被控訴人会社関西支店の担当者との打ち合わせが行われ,控訴人自らが講師として講演した。そして,いずれの講師料(各15万円)についても,平成11年7月の学習会の場合と同様,控訴人の希望により,被控訴人会社から,人権協会の口座にこれらの金員が振り込まれた。
(2)一方,被控訴人会社は,平成14年1月31日,被控訴人会社の関西支店において,KJ同友会と同支店との交流学習会を,人権協会の実質的な指導の下で開催したが,その際,椌訴人と被控訴人会社関西支店の担当者との打ち合わせが行われ,控訴人自らが講師として講演した。控訴人は,被控訴人会社から,講師料の支払方法を確認された際,当時控訴人がKJ同友会の職員(会長)で,KJ同友会を支える資金とするため, KJ同友会を振込先とするのが適当であると考え,その旨返答した。そして,これにそって,被控訴人会社から,同講師料15万円がKJ同友会の口座に振り込まれた。
 平成14年11月14日,控訴人と被控訴人会社関西支店の担当者との打ち合わせが行われ,同支店において,毎年春を目安に,被控訴人会社の関西支店とKJ同友会との交流会を実施するとともに,毎年秋を目安に,控訴人を講師に招いて講演を行い,被控訴人会社の支店トップ層(幹部)の学習会を開催することが決まった。しかし,平成14年については,秋に上記学習会を実施することは日程的に無理があったため,翌平成15年2月に上記学習会を開催することとなった。
 そして,平成15年2月19日,被控訴人会社の関西支店において,被控訴人会社の支店トップ層の学習会が開催され,控訴人は,その講師として講演した。その際,控訴人は,被控訴人会社から講師料の支払方法を確認され,当時控訴人が既にKJ同友会の職員の職を辞しており,平成14年1月のときのようにKJ同友会を振込先とする必要がなくなったため,控訴人個人を支払先としてほしい旨返答した。被控訴人会社の担当者は,この申し出にそって,控訴人に対し,講師料10万円を現金で手渡し,控訴人から,控訴人個人が講師料10万円を受領した旨の領収書を受け取った。
(3)平成15年春のKJ同友会と被控訴人会社関西支店との交流会は,予定より遅れて,同年7月18日,被控訴人会社の関西支店において実施された。
 平成15年秋の被控訴人会社の支店トップ層(幹部)の学習会(本件研修会)開催に向けて,同年7月25日,同年8月26日及び同年10月1日に,控訴人と被控訴人会社関西支店の担当者らとの間で打ち合わせが行われ,日程を同年12月ころとすること,椌訴人に加え柏木の2人を講師とすることなどが内定し,その後,柏木にも講師依頼がされ,同人はその依頼を承諾した。しかし,同年11月13日ころ,被控訴人会社の担当者は,控訴人及び柏木に対し,本件研修会の開催を中止する旨伝えた。
(4)控訴人,人権協会の事務局員,柏木及び被控訴人会社の担当者である村瀬の4名は,平成15年12月1日,大阪市立大学大学院梅田サテライト控え室において,会談した。村瀬は,同会談において,控訴人及び柏木らに対し,被控訴人会社が本件研修会を中止した経緯等について説明したところ,柏木は,村瀬の説明の.中で,被控訴人北口の名前が出たことから,被控訴人北口からも説明を聞くべく,柏木,被控訴人北口,控訴人,被控訴人会社の4者間で会合をもつことを提案したが,上記会談後,被控訴人北口から控訴人と同席することを拒否されたため,控訴人を除いた3者間で会合をもつことになった。その後,被控訴人北口は,柏木に対し,上記会合に人権協会の元副会長であった宋貞智(後記(5)イ①の「『在日コリアン人権協会』の組織正常化に向けての訴え」と題する書面(甲4)の作成者)を同席させることを提案したが,柏木はこれを断った。
(5)ア 被控訴人北口,柏木,被控訴人会社の藤田及び村瀬の4名は,平成16年2月17日,
大阪市浪速区久保吉所在の大阪人権センターにおいて,本件会合をもった。村瀬は,本件会合において,柏木に本件研修会を中止した経緯及び理由等を改めて説明した。
イ 本件会合において,被控訴人北口は,藤田と村瀬が同席した場で,柏木に対し,以下の内容の書類を示した。
①「『在日コリアン人権協会』の組織正常化に向けての訴え」と題する書面(甲4
②「寄稿について」と題する書面(甲6
 上記①の書面と同内容の電子情報をインターネット上でダウンロードしたもの
③「『エセ同和』対策10原則」と題する書面(甲8
④ビラ(乙3
 保護者会が作成した書面であり,保護者会が平成13年4月16日に関西電力本社前で配布したもので,「関西電力は就職差別をやめてください」「『在日コリアン・マイノリティ就職教育セミナー』への組織的妨害を許しません」等の記載がある。
⑤「在日コリアン人権協会ニュース」(2001/5/160号,乙4
 人権協会が発行した書面であり,保護者会が平成13年4月16日に関西電力本社前で座り込みを行った旨の記載がある。
⑥ビラ(乙5
 保護者会が作成した書面であり,保護者会が平成13年6月15日に実施された協議会の設立20周年記念行事の際に,会場前で配布したもので,「大阪企同連は就職差別をやめてください」「『在日コリアン・マイノリティ就職教育セミナー』への妨害を許しません」等の記載がある。
⑦「KMJ関係」と題する書面(乙1
 飲料メーカーであるキリンビールが作成した書面であり,キリンビールがKMJに集中研修期間研修指導料〔コンサルタント料〕として,平成8年から平成10年までの3年間に月50万円の合計1800万円を支払うこと等の記載がある。
⑧人権協会と近畿日本ツーリスト及びツーリストサービスとの間の確認書(乙6の1
⑨「確認書に基づく実施計画」(乙6の2
 上記⑧の確認書に基づく実施計画を定めたもので,その3項には,「社員の研修にあたり研修教材を積極的に活用する。社員の研修については,積極的に教材を活用するために,以下の教材を購入する。」として「①新よりよき隣人として 全社員配布 ②季刊「サイ」全支店配布 ③在日コリアン人権協会ニュース 全支店配布 ④研修ビデオ」等の記載がある。
⑩「『人権問題研修』における在日コリアン人権協会との対応について」(乙6の3
 近畿日本ツーリストないしツーリストサービスが人権協会から,テキスト (タイトル「新よりよき隣人として」)[1冊700円〕を合計1万冊(近畿日本ツーリストが9000冊,ツーリストサービスが1000冊),季刊 「Sai」(年間2800円)を合計350冊(近畿日本ツーリストが270冊,ツーリストサービスが80冊),月刊新聞「在日コリアン人権協会ニュース」(年間3000円)'を合計349部(近畿日本ツーリストが270部,ツーリストサービスが79部),研修ビデオ(1巻5万円のものを近畿日本サービスが2巻,1巻2万円のものをツーリストサービスが1巻)を各購入するとともに,KMJの法人会員(1口年間4万円)に合計10口分(近畿日本ツーリストが8口,ツーリストサービスが2口)に加入すること等の内容が記載されている。
ウ そして,被控訴人北口は,藤田と村瀬が同席した場で,柏木に対し,上記の資料を示しつつ,また,自ら天理教関係者から聴取した事情を加えて,以下の事実を指摘した。
①人権協会ないしKMJが,過去に差別事件を起こしたことのある企業(キリンビール,近畿日本ツーリスト及びツーリストサービス)ないし宗教法人(天理教)のうち,キリンビールからコンサルタント(控訴人によれば研修指導料)の名目で1800万円 (月50万円×3年間)を受け取ったこと,また,近畿日本ツーリスト,ツーリストサービス及び天理教に対し,テキスト (1冊700円。近畿日本ツーリストが9000冊,ツーリストサービスが1000冊,天理教が約3万冊),季刊「Sai」(年間2800円。近畿日本ツーリストが270冊,ツーリストサービスが80冊,天理教が300冊),月刊新聞「在日コリアン人権協会ニュース」(年間3000円。近畿日本ツーリストが270部,ツーリストサービスが79部,天理教が300部),研修ビデオ(1巻5万円のものを近畿日本サービスが2巻,1巻2万円のものをツーリストサービスが1巻)を購入させ(以下,上記購入に係る物品を「テキスト等」と総称する。),さらに,KMJの法人会員(1口年間4万円。近畿日本ツーリストが8口,ツーリストサービスが2口,天理教が50口)に加入させるなどして,多額の金員を受け取っていること,
②人権協会ないしKMJが受け取った金員等につき,その出所・金額・使途等の説明が人権協会の理事会で会計報告されていないこと等から,人権協会の資金面が「灰色」である等の批判が人権協会内部から出ており,また,上記イ①,②の各書面(甲4,6)が連絡会ないし協議会の加盟企業宛に配布されていること,
③ 人権協会と関係のある保護者会が,KMJの開催する就職支援セミナーを関西電力が後援しなかったことを差別だととらえて,関西電力の本社前でビラ(乙3)の配布及び座り込みを行い,また,協議会の設立20周年記念行事の際に,協議会が差別集団であるかのようなビラ(乙5)を配布したが,このこと等について,連絡会ないし協議会から多くの批判がされていること
エ その上で,被控訴人北口は,人権活動において,差別を行った企業等から金銭を授受するようなことはあってはならず,また,後援をしないことが差別であるとして後援を行うよう圧力をかけることには問題があるとの自己の見解を述べて,上記ウ①ないし⑧のような人権協会の行為等は,「エセ同和」ないし「エセ人権」的な行為となりかねない旨の発言(以下,被控訴人北口の本件会合における発言を「本件発言」と総称する。)をして,人権協会に関する被控訴人北口の認識を説明した。
 以上の事実が認められ,同認定を覆すに足りる証拠はない。

2 争点1(本件契約の当事者,控訴人の損害額)について

(1)上記認定事実によれば,被控訴人会社は,被控訴人会社の神戸支店で平成9年ころに発生した差別問題を巡る被控訴人会社と人権協会の事実確認会を契機として,平成11年ころから,毎年1回,被控訴人会社の本店において,在日コリアンの人権問題に関する学習会を実施するようになり,現に,平成11年7月3日,平成12年7月28日及び平成14年β月15日,被控訴人会社の本店において,上記学習会が開催され,いずれについても,控訴人と被控訴人会社関西支店の担当者との打ち合わせが行われ,控訴人自らが講師として講演したこと,この講演の講師料各15万円の振込先は,人権協会の資金にしたいという控訴人の希望で人権協会の口座に振り込まれたこと,一方,被控訴人会社は,平成14年1月31日,被控訴人会社の関西支店において,人権協会の実質的な指導の下で,KJ同友会と同支店との交流学習会を開催し,その際,控訴人と被控訴人会社の担当者と打ち合わせが行われ,控訴人自らが講師として講演したこと,この講演の講師料15万円の振込先についても,KJ同友会の資金にしたいという控訴人の希望によりKJ同友会の口座に振り込まれたこと,平成14年11月14日,控訴人と被控訴人会社関西支店の担当者との間で打ち合わせが行われ,その結果,同支店において,毎年春を目安に,被控訴人会社の関西支店とKJ同友会との交流会を実施するとともに,毎年秋を目安に,控訴人を講師に招き講演を行って,被控訴人会社の支店トップ層(幹部)が学習会を開催することが決まったこと,そして,この日の打ち合わせに基づいて,平成14年秋の学習会が,日程の都合で平成15年2月19日に,控訴人を講師に招いて開催され,その講師料10万円については,支払方法を確認された控訴人が,当時,KJ同友会の職を辞していたことから控訴人個人への支払を希望したことにより,被控訴人会社から控訴人に直接手渡され,被控訴人会社の担当者が控訴人から,控訴人個人が講師料10万円を受領した旨の領収書を受け取っていること,その後,平成15年春の交流会が,予定より遅れて同年7月18日に開催され,数回の打ち合わせ後の同年10月1臼の控訴人と被控訴人会社関西支店の担当者間の打ち合わせにより,平成15年秋の学習会について,控訴人と柏木の両名を講師に招いて同年12月ころに開催することなどを内定し,控訴人及び柏木はその講師依頼を承諾したが,同年11月13日ころ,被控訴人会社の方から,この学習会(本件研修会)にっいては中止が伝えられ,結局取り止めになったこと,以上の諸事情が認められる。
 ところで,前記の争いのない事実等や認定事実によると,控訴人は,人権協会ないしKJ同友会を代表ないし代理する権限があったことが明らかであるが,本件契約ないしそれ以前の一連の契約が被控訴人関西支店の担当者と控訴人との打ち合わせを経て締結されたうえ,控訴人自らが講師として講演しているところ,それらの契約書が作成されていないこともあって,それらの契約が,控訴人が人権協会ないしKJ同友会の代表者ないし代理人としての立場としてなされたか,控訴人個人の立場としてなされたかが必ずしも明確ではないといわざるをえない。
 他方,被控訴人会社は,講師料の支払方法を毎回控訴人に確認し,控訴人希望どおりに支払っていたものであることに照らすと,本件契約を含めた一連の契約の相手方が人権協会ないしKJ同友会か控訴人個人であるかについて,格別,重要視していなかったといわざるをえない(仮に,被控訴人会社主張のとおり,人権協会ないしKJ同友会を契約の相手方と考えていたなら,毎回,その支払方法を控訴人に確認することなく,それらの口座に振り込めば,良かったはずである。)。
 そうすると,本件契約ないしそれ以前の一連の契約は,被控訴人会社と実際に講師料が支払われた人権協会,KJ同友会ないしは控訴人との間で締結されたとみるのが相当であるところ,控訴人がKJ同友会の職を辞したとして講師料の支払先を控訴人と希望し,その希望どおり控訴人個人に講師料が支払われた平成15年2月19日の契約以後である本件契約については,再び控訴人がKJ同友会の職に復帰するなどの特別の事情のない限り,被控訴人会社と控訴人との問で締結されたというべきである。そして,その特別の事情を認めるに足りる証拠はない。
 かりに,それらの契約の一方の当事者が控訴人ではなくて人権協会ないしKJ同友会であるとしても,被控訴人会社は,講師料の支払を毎回控訴人に確認のうえ,その指示どおりに支払っていることに照らすと,本件契約につき,控訴人からの講師料の支払請求を拒否することはできないというべきである。
(2)この点,被控訴人会社は,平成15年秋の学習会(本件研修会)における控訴人の講演の講師料に関する契約の一方当事者は,控訴人ではなく人権協会である旨主張し,丙1(「在日コリアン人権協会 人権啓発研修会について(案)」と題する書面)の記載中には「学習会費用として,在日コリアン人権協会に講師料を支払う。」との上記主張にそう部分がある。
 しかしながら,丙1は,平成15年2月19日に被控訴人会社関西支店で実施された学習会に関する書面であるところ,この書面はあくまでも被控訴人会社内部で作成された書面であるうえ,上記のとおり,被控訴人会社の担当者は,この学習会での控訴人の講師料10万円については,控訴人個人にこれを手渡し,捜訴人から,控訴人個人が講師料10万円を受領した旨の領収書を受け取っているのであるから,丙1の上記記載から,直ちに,本件研修会における控訴人の講演の講師料に関する契約の当事者が,控訴人ではなく人権協会であると認めることはできない。
 そして,他に上記(1)の判断を左右するに足りる証拠はない。
(3)しかして,上記(1)で説示したところによると,本件契約は,平成15年秋の学習会(本件研修会)が被控訴人会社の都合で中止となったことにより不履行となるに至っているから,被控訴人会社は,控訴人に対し,この不履行に基づいて控訴人が被った損害を賠償する責任があるというべきである。
 そこで,その損害額について検討するに,本件全証拠によっても,控訴人と被控訴人会社とが本件契約をする際に,本件研修会での控訴人の講演の講師料をいくらにするかについての明確な約定がされていたとまでは認めることはできないが,平成11年7月3日,平成12年7月28臼及び平成13年3月15日に実施された被控訴人会社本店での学習会及び同年1月31日に実施された被控訴人会社関西支店での交流会における控訴人の講師料がいずれも15万円であったこと,平成15年2月19臼に被控訴人会社関西支店で実施された学習会での控訴人の講師料が10万円であったことからすれば,平成15年秋に実施される予定であった本件研修会での控訴人の講師料は少なくとも10万円であったということができ,これによると,控訴人は被控訴人会社による本件契約の不履行によって,この講師料相当額である10万円の損害を被ったものというべきである。

3 争点2(本件会合における被控訴人北口の発言は違法に控訴人の名誉を毀損するものであるか,控訴人の損害額)について

(1)控訴人は,被控訴人北口が,本件会合において,被控訴人会社の社員2名と柏木に対し,控訴人が人権問題を起こした企業を脅し,法外な値段で資料を売りつけたり,実体のないコンサルタントの名目で資金を受けとっているうえ,こうして得た資金を個人的に着服している,また,人権協会の調査を行ったところ,同協会にっいて「エセ同和」的な行為が目に余ると判断した旨の発言をし,もって控訴人の名誉を違法に毀損した旨主張する。
(2)上記1(5)認定の被控訴人北口の本件発言の内容やその際に示された資料(甲4)の内容などからすると,被控訴人北口の本件発言は,直接的には,人権協会についての幾多の問題点を指摘して,同協会を批判することに主眼があったというべきであるが,当時控訴人が,人権協会を実質的に指導し(甲4,弁論の全趣旨から認められる。),同協会の副会長の立場にあったこと,被控訴人北口による本件発言が,本件研修会で控訴人及び柏木が講師をする話が中止となったいきさつを柏木に説明をするための本件会合の中でされたものであることなどからすれば,被控訴人北口の人権協会に対する上記批判は,同時に控訴人個人に対する言動にも向けられたものとみる余地がある。
(3)そこで,進んで,本件発言が控訴人の名誉を違法に毀損するものか否かについて検討する。
 仮に,被控訴人北口の本件発言が公然とされたとみられ,同発言によって控訴人の社会的評価が低下したとしても,以下のとおり,本件発言は,意見ないし論評の表明として,違法性を欠くものというべきである。すなわち,
ア 本件発言は,被控訴人会社が在日コリアンの人権に関する木件研修会を中止した経緯,理由等を,本件研修会の講師に予定されていた柏木に説明するにあたって,人権協会に関する問題点を指摘し,人権活動において金銭の授受がされたり,差別でないことを差別と主張することが,逆に,差別が助長されかねない等の自己の見解を述べる.ことで,あるべき人権活動について批判ないし論評するものであって,本件発言は,公共の利害に関する事実に係るとともに,その目的はあるべき人権活動に関する見解を述べるという専ら公益を図ることにあったと認められる。
イ また,本件発言のうち,上記1(5)ウ①(人権協会ないしKMJが,過去に差別事件を起こしたことのある企業等から,コンサルタント料,テキスト等の購入代金ないしKMJの法人会員費等の金員を受け取っていること)については,控訴人自身その事実を認めている(控訴人本人)。また,同②(人権協会ないしKMJが受け取った金員等につき,その出所,金額及び使途等の説明が人権協会の理事会で会計報告されていないこと等から,人権協会の資金面が「灰色」である等の批判が人権協会内部から出ており,そのことが記載された各書面(甲4,6)が連絡会ないし協議会の加盟企業宛に配布されていること)及び同③(人権協会と関係のある保護者会が,KMJが開催する就職支援セミナーを関西電力が後援しなかったことを差別だととらえて,関西電力の本社前でビラ (乙3)の配布や座り込みを行い,協議会の設立20周年記念行事の際に,ビラ(乙5)を配布したこと等につき,連絡会ないし協議会から多くの批判がなされていること)についても,被控訴人北口が本件会合で柏木らに示した各書面(甲4乙3ないし)の記載内容や,被控訴人北口本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によってこれを認めることができ,したがって,本件発言をする際の意見ないし論評の前提としている事実が重要な部分について真実であることの証明があったということができる。
 なお,上記②に関して,被控訴人北口が,人権協会ないしKMJが差別事件を起こした企業から多額の金員を受け取っており,かかる金員を含め人権協会の資金面が「灰色」である等の批判が人権協会内部から出ており,控訴人個人の責任を問う声が人権協会内部から出ている旨指摘したとしても,本件発言に至る経緯や証人柏木の証言内容からすれば,このことが直ちに,控訴人が人権協会の資金を個人的に流用していると指摘するものであるとまでは認め難い。
ウ 本件発言は,上記1(5)ウ①ないし③の行為等をふまえて,そのような活動を「エセ同和」ないし「エセ人権」的であると論評しており,その表現は人権問題に取り組む控訴人に対しては強烈な表現をもった批判であるとしても,その内容を全体的に考察すれば,控訴人個人に対する人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域を逸脱したものとまでは認め難い。
エ 以上のとおりであって,被控訴人北口による本件発言は,これによって控訴人個人の社会的評価が低下したとしても,公共の利害に関する事実に係り,かっ,その目的が専ら公益を図ることにあり,また,意見ないし論評の前提としている事実が重要な部分について真実であることの証明があったもので,かつ,同発言は人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域を逸脱したものとまでは認め難いのであるから,その意見ないし論評の内容が合理的か不合理であるかを問わず,違法性を欠くものというべきである。
 なお,控訴人は,被控訴人北口の本件発言は,同被控訴人が過去に,控訴人から「日本生命事件」のもみ消しを断られたこと等への個人的恨みから,人権協会の社会的影響力をなきものとする三とを目的とするもので,公益目的を欠く旨主張するが,これを裏付ける的確な証拠はないし,本件発言がされるに至った経緯,発言内容等からすれば,被控訴人北口に他の何らかの目的があったとしても,本件発言から公益目的が失われるものではないというべきであるから,この点に関する控訴人の主張は理由がない。
 また,控訴人は,人権協会ないしKMJが受け取った金員は,当該企業との合意に基づいているなど,正当な対価というべきもので,実体のないコンサルタント料の名目で金員を受け取ったものでも,「余りにも高額」なものでもないし,保護者会が行ったビラ配布ないし座り込みは,在日コリアンに対する不当な就職差別を撤廃すべく正当な目的をもって行われたものであり,被控訴人北口の発言は,いずれも事実を曲解したものである。
 人権協会が企業団体に対して行った抗議行動は,物品購入要求や金銭的要求を一切介在させていないのに,被控訴人北口がこれをエセ行為と中傷するのは国の基準と大きく乖離している,などと主張する。
 しかし,かかる控訴人の指摘は,いずれも意見ないし論評の表明としての本件発言の内容の当否,合理不合理に関わるものにすぎないものというべきであって,本件発言につき違法性を欠くとの上記判断を左右するものとまではいえない。
(4)よって,被控訴人北口の控訴人に対する不法行為責任は認めるに至らないから,その余について判断するまでもなく,控訴人の被控訴人北口に対する請求は理由がない。

4 まとめ

 以上の次第で,控訴人は,被控訴人会社に対し,本件契約の債務不履行による損害賠償請求権に基づき,10万円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな平成16年12月28日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めうるというべきであり,控訴人の被控訴人会社に対する請求は理由があるから認容すべきであるが,控訴人の被控訴人北口に対する請求は理由がないから棄却すべきである。

第4 結論

 よって,原判決中,被控訴人会社に関する部分は不当であるから,同部分を取り消して,控訴人の被控訴人会社に対する請求を認容することとし,原判決中,被控訴人北口に関する部分は相当であり,控訴人の同被控訴人に対する控訴は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。

大阪高等裁判所第1民事部

裁判長裁判官 横田勝年

裁判官 小林秀和

裁判官 植屋申一

個人用ツール
名前空間

変種
操作
案内
ツールボックス