控訴理由書

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2007年5月22日

目次

第1 争点1(本件契約の当事者)について

1 原判決は「被告会社で実施されるようになった在日コリアンの人権問題に関する研修会は、平成9年に行われた被告会社と人権協会の事実確認会を契機とするもので、その内容につき人権協会が指導的役割を果たしているのであり、かかる事実経緯に照らせば、研修会で行われる一プログラムである講演について、人権協会との間とは別に、被告会社と原告個人との間で、包括的な講師契約が締結されるとは考えがたい」とする(原判決13頁)。
しかし、研修会が被控訴人大成建設と人権協会の事実確認を契機とするもので、人権協会が指導的役割を果たしていたとしても、だからといって人権協会と被控訴人大成建設との間に包括的な講師契約が締結されたと解するのは論理必然的とは言えない。一見人権協会の副会長であり、運動の中心的人物である控訴人の場合、控訴人と人権協会とを同一視してしまいがちであるが、法的には間違いであると言わざるを得ない。本件の訴外柏木教授や他の学者、研究者または他団体の活動家等のように人権協会外部の者が講師になった場合でも、論理必然的にその者達が排除されて、講演に関する契約当事者には成り得ないとするのはいささか強引に過ぎる。
2 原判決は「平成15年2月19日実施の研修会についても、被告会社が社内で作成した『在日コリアン人権協会人権啓発研修会について(案)』と題する書面(丙1)において、講師料の支払先が人権協会となっている」ことを理由にあげる。
しかし、同書面はあくまで被控訴人大成建設内部の書面であり、しかも案文にしか過ぎない。同書面に基づいて、控訴人も人権協会も被控訴人大成建設から講師料の支払先は人権協会とするとの話は一度も聞いていないし、原審における村瀬証人も支払先を人権協会と指定する旨を控訴人乃至人権協会に告げたとの証言は一切していない。
3 また原判決は「平成15年10月1日に行われた村瀬と原告との打合せは、同年12月に実施予定の本件研修会において、人権協会が原告と柏木教授の2人を講師として講演を行うという予定を打ち合わせたものにすぎず、かかる打合せをもって、被告会社と原告個人との間で、別途、原告個人を一方当事者とする講師契約が締結されたものということはできず、原告の上記供述も採用することができない」とする(原判決15頁)。
しかし、控訴人も訴外柏木教授も講演を行うという予定のもとに準備をしていたのであり、確定的に講演契約は成立していたと言うべきである。だからこそ被控訴人北口の横やりによって講演が中止になったときに、控訴人と被控訴人大成建設は訴外柏木教授に謝罪しに行ったのであり、また訴外柏木教授や控訴人は被控訴人北口から中止に至った事情を聞こうとしたのである。

第2 争点2(本件会合における被控訴人北口の発言は違法に控訴人の名誉を毀損するものである)について

1 エセ人権行為との中傷と社会的名誉の毀損

 原判決は、「仮に、被告北口の本件発言によって、原告の社会的評価が低下する余地があるとしても」と述べ(原判決17頁)、さらに「『エセ同和』、ないし『エセ人権』的であると論評しており、その表現は人権問題に取り組む活動家である原告に対しては強烈な表現をもった批判であるとしても、本件発言を全体的に考察すれば、原告個人に対する人身攻撃に及ぶなど論評としての域を逸脱しているとまではいえない」としている(同18頁)。
しかし、被控訴人北口のかかる発言は、活動家である控訴人にとって「社会的な死」を意味するのであり、原判決のかかる認識には、被控訴人の発言の持つ社会的に看過しがたい重大な影響に関して事実の誤認があるというべきである。
まず「エセ人権行為」なる用語は一般的には存在しない。これに対して「エセ同和行為は社会悪として広く認識された概念である。被控訴人北口が在日コリアン人権協会および控訴人を「エセ人権」と中傷したのは、在日コリアン人権協会および控訴人が同和問題関係者ではなく、従って直戴に「エセ同和」と中傷することに無理が生じるため、社会的に評価が定着している「エセ同和」を連想させることを企図して「エセ人権」なる用語を独自に造語したものである。
ところで「エセ同和団体」は「部落出身者が集まってつくっているものと、そうでない総会屋・暴力団員がつくっているものの二つに分けられる」(甲12「部落問題・人権辞典」部落解放。人権研究所編 94項)。「元総会屋」 「暴力団」が許されざる社会悪であることは言をまたない。ついで「部落出身者が集まってつくっているもの」は社会一般にはマスコミ報道されたものから、その印象が形成される。昨年から今年にかけて大量に報道されたこの種の「エセ同和」は「飛鳥会事件」(甲13乃至17号証)と「八尾安中の丸尾事件」(甲18乃至20号証)である。両者とも部落出身者であるとともに、それぞれの地区の部落解放同盟の支部長、地区協議会会長を務めていた。また暴力団との関係も深く、まさに社会悪そのものとして批判され、部落解放同盟自身も「エセ同和」と断定せざるをえなかった(甲21号証)。両者が行った「エセ同和行為」とは、新聞報道によれば、業務上横領、詐欺、恐喝、職務強要等まさに犯罪そのものである。このように「エセ同和行為」とは、犯罪あるいは、限りなく犯罪に近い行為であり、「エセ同和行為」と名指しされることは犯罪者扱いされるに等しいことである。
出身者とそうでない者のいずれにしても、「エセ同和行為」には許されざる社会悪との評価が定着している。政府、自治体においても、従来から「エセ同和行為」排除に取り組んできた。昭和61年12月11日の地対協意見具申の中で「エセ同和行為の排除のためには、関係行政機関等の緊密な連携と幅広い取り組みが必要である。」と述べている。また国においては、昭和61年9月、法務省、総務庁、警察庁および日本弁護士連合会の四者が、「エセ同和行為対策連絡会議」を設置した。さらに昭和62年6月15日各省庁が緊急な連絡をとり、一体となってエセ同和行為の排除を推進することを目的として全省庁参加の下「エセ同和行為封策中央連絡会議」が設置され、翌日「エセ同和行為対策要綱」が決定された。大阪では、昭和62年2月大阪法務局、国の行政機関、大阪府警察本部が「エセ同和行為対策関係機関連絡会」が設置された。
このように政府、各行政機関が一丸となって取り組んでしることに見られるように「エセ同和行為」は社会一般においては、なんとしてでも排除しなければならない社会悪としての評価が定まっている。従って、「エセ同和行為」との名指しされることは、今日の日本社会においては社会的生命を失うこと意味するものである。

2 「エセ同和行為」に関する国の基準と被控訴人北口の歪曲

 原判決は「本件発言は、被告会社が在日コリアンの人権に関する本件研修会を中止した経緯、理由等を、本件研修会の講師に予定されていた柏木教授に説明するにあたって、人権協会に関する問題を指摘し、人権活動において金銭の授受がされたり、差別でないことを差別と主張することで、逆に、差別が助長されかねない等の自己の見解を述べることで、あるべき人権活動について批判ないし論評するものであって、本件発言が、公共の利害に関する事実に係るとともに、在日コリアン又は部落社会に対するあるべき人権活動に関する見解を述べるという公益目的が含まれていると認められる」とする。
被控訴人北口は、企業から「エセ同和行為」に関する相談を受ける立場にあり、またこれに関する著書(「必携 エセ同和行為にどう対処するか」解放出版社)もあることから、「エセ同和行為」に関して抱負な知識を得ているものと考えられる。しかし、被控訴人北口が控訴人および在日コリアン人権協会を「エセ人権行為」と中傷する基準は、国の「エセ同和行為」に関する基準と著しく乖離している。
大阪法務局が発行した「同和問題の解決に向けて エセ同和行為を排除するために」(甲22号証)では、「エセ同和行為とは」「何らかの利権を得るため、同和問題を口実にして企業・行政機関等へ不当な圧力をかけるものであり、その行為自体が問題とされ、排除されるべき性格のものである」(1項)としている。不当な圧力とは「企業・行政」機関等に『ゆすり』『たかり』等をする行為」(甲23号証「エセ同和行為対応の手引き 平成19年4月法務省人権擁護局)であると規定している。さらにその中身を端的に表現すると「消費者契約の自由を無視して、購入を強要するといった行為そのものが(価格や内容物に関わらず)不当にあたります。 」(甲24号証3項 大阪法務局人権擁護部人権相談担当 神村氏の回答)ということである。
被控訴人北口が控訴人および在日コリアン人権協会を「エセ人権行為」と中傷するに至った理由は、以上の基準とは明らかに矛盾するものであり、控訴人および在日コリアン人権協会が「エセ人権行為」と称されるためのいかなる理由も上記基準からは見出すことができない。
被控訴人北口は在日コリアン人権協会が企業団体に対して抗議行動を行った行為を、金銭的要求や物品の購入要求がなくとも「エセ人権行為」と中傷し、その根拠として「就職差別撤廃」という要求の不当性をあげた。物品購入も金銭要求の一切介在しない行為をも「エセ行為」と中傷するのは、明らかに国の基準と大きく乖離している。
また、被控訴人北口は差別事件を生起した企業が在日コリアン人権協会の抗議を受けた結果、在日コリアン人権協会の関連する啓発団体から啓発冊子(一部700円)を全社員分購入したことが「あまりにも多額」であるから「エセ行為」に当たると中傷した。これに関して大阪法務局は「エセ同和行為」にあたらないとの見解を明確にした(甲25号証 岡澤の2回目の聞き取り報告書)。要するに、双方の合意に基づく契約は「エセ同和行為」にあたらないのである。
控訴人および在日コリアン人権協会は、従来から「エセ行為」を根絶し、部落解放同盟のように自らの組織内から「エセ行為」を生起することを未然に防止するため、企業との間に「確認書」を交わし、啓発教材の冊数まで明確に記した合意書を交わしてきたのである。被控訴人北口はこれをもって、控訴人および在日コリアン人権協会を「エセ人権行為」と中傷したが、国の基準にかんがみれば、逆にこの確認書こそが双方の合意を証明するものであり、「エセ行為」でないことのなによりの証左となるのである。

3 在日コリアンの人権運動と「エセ同和行為」

 そもそも同和問題とは関係のない在日コリアン人権運動の控訴人および在日コリアン人権協会を「エセ人権行為」と中傷するにはあまりにも無理がある。先に述べたように社会的問題となった「エセ同和行為」とは同和問題のみであり行政のいかなる文書にも「エセ人権行為」という表現は存在しない。「企業さんにおいてもエセ同和根絶という言葉を使いますけど、エセ人権という名称を使っているところはほとんどないんじゃないでしょうかね。」(甲24号証2項 大阪法務局人権擁護部人権相談担当 神村氏)というのが現実である。
また、「えせ同和行為」の背景には在日コリアン問題ではありえない状況が存在する。「企業に対して不当な要求をする場合に、その手口として、その企業の監督官庁等に連絡をとり、その官庁の企業に対する影響力を悪用しようとすることが多い。」(甲23号証法務省人権擁護局「えせ同和行為対策の手引き」3項)。これは同和対策審議会答申(以下答申)とそれに基づく法律があるため。行政に同和問題解決のための窓口が設置されていることから、可能となる手口である、在日コリアン問題には、これを解決するための答申も法律もなく、行政にも独自の窓口が設置された事例はない。従って、官庁の影響力を利用するすべもないのである。
ついで、答申の精神から「同和問題が今日の国民的課題とされていることから、この問題を国民の誰もが一般論として否定できず、
 また避けて通れないという大義明文をかかげ、企業や行政機関等へ
不当な圧力をかけ、金銭や利権を強要するというえせ同和行為が横行するようになったものと考えられます。」 (甲22号証 「同和問題の解決に向けて<えせ同和行為を排除するために>」3項 大阪法務局発行)。つまり、その他の被差別問題には生じないエセ行為が同和問題でのみ生起する背景には、答申や法律を背景とした「大義明文」によつて「『同和は金になる』という風潮が一部に見られる」(同上)状況を形成したからに他ならない。
要するに在日コリアンの人権運動を「エセ同和行為」と同じレベルで中傷することは、あまりにも無理なこじつけといわざるをえないのである。

4 被控訴人北口が控訴人をエセ中傷する真意

 被控訴人北口が書記長という要職を務める部落解放同盟大阪府連合会(以下府連)は昨年から組織内において同和事業に関する不正事件が大きく問題となり、連日マスコミをにぎわせた(甲13乃至20号証 新聞記事)。これらの事件は被控訴人北口が指導すべき大阪の支部で生起したことであり、被控訴人北口は従来からこれら問題を知りえる立場であり、また知らなければならない立場であることは明白である。それにも関わらず、両容疑者が逮捕されるまで、なんらの対応もしてこなかった。自らの組織内の問題には手をつけず、他の組織である控訴人および在日コリアン人権協会に関しては府連として組織的(執行委員会で了承 地裁での証人尋問調書)に取り組み、事実調査活動まで行うのは、極めて不自然といわなければならない。
以上の矛盾の根本原因は、現府連が故上田卓三氏(前部落解放同盟中央本部委員長、元府連委員長、前中小企業団体ティグレ会長)側と激しく対立したことによる。1996年ごろから始まった上田派と反上田派の対立は府連組織を巻き込んで、日増しに激化し、組織外にまで影響を与えた。被控訴人北口は反上田派の急先鋒として、上田派の追い落としを画策し、府連組織から上田派を排除しようとしてきた。
このような状況の下、被控訴人北口は控訴人が上田卓三氏と緊密な関係にあると思慮した。
控訴人は高校生1年生のころから、地区の解放奨学金を受給したことを契機に、地元(人尾市安中地区)の部落解放同盟支部の活動に参画した。大学に進学してから、地区内で在日コリアンの人権運動を開始し、地元部落解放同盟支部はもとより、府連の支援、連帯をも得てきた。活動スタイルはそれまでの在日コリアンの民族運動とは全く異なり、南北の政治課題ではなく、地域に根ざした生活権獲得運動を展開した。これは部落解放同盟の運動から学んだ手法であり、その後の在日コリアン運動のモデルとなった。地方公務員、郵便外務職員等国籍条項撤廃運動では、当時の府連と共聞関係を築き、緊密な関係を保持してきた。このような運動経過から控訴人は、当時府連委員長であった故上田卓三氏と知己を得、信頼関係を築くこととなったのである。
被控訴人北口はこれまでの準備書面で、企業や行政に圧力をかけることが問題であると主張してきたが、これは被控訴人北口が所属する部落解放同盟の運動スタイルそのものであり、控訴人が部落解放同盟から学んだものである。被控訴人北口においては、控訴人の運動が「エセ人権行為」に当たらないことは、十分承知の上であえて「エセ人権行為」との中傷を展開してきたのである。
しかし、控訴人は部落解放同盟の組織外であることから、はじめに控訴人を在日コリアン人権協会から排除せんとし、自らの影響下にあった在日コリアン(中傷文書を配布した宋等 被控訴人側証拠)をして、中傷文書を配布したものである。在日コリアン人権協会内には、控訴人以外に故上田卓三氏と関係するものはいないことから、被控訴人北口の攻撃の対象は唯一控訴人のみであった。しかし、これが不可能と判断した後は、在日コリアン人権協会までも攻撃の対象としたのである。
要するに、被控訴人北口が控訴人および在日コリアン人権協会を「エセ人権行為」と中傷したのは、自らの政敵である上田派を打派することが目的であり、その手段として「エセ人権行為」なる用語を造語し、これを用いたにすぎないのである。
つまり、被控訴人北口における「エセ行為」の基準は、法務省、大阪府が規定する基準とは関係なく、政敵であるか否かが全てであり、被控訴人北口および現府連に敵対しない限り、飛鳥会の小西も安中の丸尾も「エセ同和行為」とは認定しないのである。
従って、被控訴人北口が控訴人および在日コリアン人権協会を「エセ人権行為」と中傷したのは、控訴人を中傷する文書類を信じたのでもなければ、「エセ行為」を排除しようとしたものでもない。唯―の目的は上田派の打倒、排除以外のなにものでもないのである。
以上の理由から、被控訴人北口は自らの府連組織内における確固とした地位を確立することを目的に、上田派を排除するために控訴人および在日コリアン人権協会を攻撃するために、あえて「エセ同和行為」に関する国の基準を意図的に曲解し、これを控訴人および在日コリアン人権協会に当てはめたものであり、その目的は極めて個人的かつ恣意的である。
かかる事実から、被控訴人北口の「エセ同和行為」の濫用は、「エセ同和行為根絶」を目指して国、自治体ならびに企業、一般市民が長年取り組んできた公益活動を著しく阻害するものであり、部落解放同盟の幹部、大学教授としての立場にかんがみるならば、その責任は重大といわざるをえない。
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