第一審判決

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平成19年2月28日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
平成17年(ワ)第2379号 損害賠償請求事件
口頭弁論終結日 平成18年10月11日

目次

主文

1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1 請求

1 被告北口末広は、原告に対し、金10万円及びこれに対する平成17年1月6日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告大成建設株式会社は、原告に対し、金10万円及びこれに対する平成16年12月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要

本件は、原告が、①被告大成建設株式会社(以下「被告会社」という。)に対し、同被告との間で締結した契約(被告会社で実施される研修会において、在日コリアン〔朝鮮半島にルーツを持つ者で日本国籍を有する者も含む。以下「在日コリアン」という。〕の人権問題等に関する講演を行うことを内容とするもの。以下「本件契約」という。)を被告会社から一方的にキャンセルされたとして、本件契約の債務不履行を理由に講師料10万円の損害賠償を求めるとともに、②被告北口末広(以下「被告北口」という。)に対し、同被告が、被告会社の社員2名及び上記研修会で講師をするよう依頼されていた柏木宏教授(以下「柏木教授」という。)に、原告の名誉を毀損する発言をしたとして、不法行為に基づき、慰謝料10万円の賠償を求めた事案である(附帯請求は、いずれも、訴状通達の日の翌日から各支払済みまで年5分の割合による遅延損害金請求である。)。

第3 争いのない事実及び証拠によって容易に認定することのできる事実

(以下「争いのない事実等」という。なお、証拠を付さない事実は、当事者間に争いがない。)
1(1) 原告は、大韓民国の国籍を有し、わが国で居住する在日コリアンである。
在日コリアン人権協会(以下「人権協会」という。)は、平成7年10月に設立された民族差別撤廃のための運動体である。原告は、平成7年から平成13年まで人権協会の会長を務め、同年から現在まで人権協会の副会長を務めている(甲3原告本人・21、22頁)。
KJ同友会は、平成5年10月に設立された在日コリアン商工業者の団体であり、原告は、本件当時、KJ同友会の会長を務めていた(甲3、弁論の全趣旨)。
 (2) 被告北口は、近畿大学の教授であり、部落解放同盟大阪府連合会の書記長を務めている者である。被告北口は、上記立場から、大阪同和問題企業連絡会(部落差別事件を契機に設立された企業組織で、部落差別をはじめとする人権課題に取り組む企業連絡会であり、大阪の一部上場企業を中心に約150社が加盟している。現在の名称は、大阪同和・人権問題企業連絡会。以下、単に「連絡会」という。)ないし大阪企業同和問題推進連絡協議会(大阪府下の8000社が加盟する協議会。現在の名称は、大阪企業人権協議会。以下、単に「協議会」という。)から助言ないし相談を求められることがあった(乙2被告北口・23、24頁)。
被告会社は、建築工事、土木工事、機器装置の設置工事、その他建築工事全般に関する企画、測量、設計、監理、施工、エンジニアリング、マネージメント及びコンサルティング等を目的とする株式会社であり、上記連絡会に加盟している会社である(乙2被告北口・24頁)。
 (3) 柏木教授は、大阪市立大学大学院創造都市研究科の教授であり、民間非営利組織(NPO)と人権問題を中心に、教育、研究活動に従事する者である。柏木教授は、過去の人権問題に関わる活動を通じて、原告及び被告北口と交流があった(甲2)。
2 被告会社は、平成15年12月ごろ、原告及び柏木教授を講師として、人権に関する研修会(以下「本件研修会」という。)を行う予定であったが、同研修会は中止となった(証人村瀬・13頁、弁論の全趣旨)。
3 柏木教授は、平成16年2月17日、被告北口、被告会社の関西支店の藤田総務室長及び村瀬泰郎(以下「村瀬」という。)と、大阪市浪速区久保吉所在の大阪人権センターにおいて、本件研修会が中止になった経緯の説明を求める等のために会合をもった(以下「本件会合」という。)。

第4 争点及びこれに対する当事者の主張

1 被告会社関係
(1) 本件契約の当事者は誰か
【原告の主張】
原告は、被告会社との間で、平成14年11月14日、毎年春に、被告会社の関西支店とKJ同友会会員との合同学習会、交流会を行い、毎年秋には、原告を講師に招いて、講演1回につき、講師料10万円との約定で、被告会社の支店トップ層(幹部)の学習会を行うことを合意した。上記合意を受けて、原告は、被告会社との間で、平成15年10月1日、同年秋の交流・学習会に当たる本件研修会において、原告及び柏木教授の2人が講演を行う旨の最終的な詰めの打合せを行った。
なお、被告会社は、本件契約の当事者が原告ではなく、人権協会である旨主張するが、平成15年2月19日に実施された研修会における原告の講師料が原告個人に直接手渡されていることからも、本件契約の当事者が原告個人であることは明らかである。
【被告会社の主張】
原告の上記主張は否認する。
本件契約における被告会社の契約の相手方は、人権協会であって、原告ではない。このことは、「在日コリアン人権協会人権啓発研修会について(案)」と題する書面(丙1)の記載内容及びファクシミリ文書(甲1)の宛先が人権協会となっていること、平成11年ないし平成14年に実施された研修会における講師料が人権協会ないしKJ同友会に振り込まれていることから明らかである。なお、平成15年2月19日に実施された研修会の講師料が原告個人に直接手渡されているのは、人権協会の副会長である原告からその旨依頼されたためにすぎず、このことによって、契約の当事者が、人権協会から原告個人に変更されたものとはいえない。
被告会社は、人権協会との間において、講師及び講師料等について、学習会の都度、内容や講演時間等を勘案して決めることとしていたものであり、原告が主張するように事前に包括的な多年度にわたる基本合意などをしたことはない。
(2) 原告の損害
【原告の主張】
原告は、被告会社から本件研修会を一歩的にキャンセルされたことで、講師料10万円を受領できなかったものであり、同額の損害を被った。
【被告会社の主張】
原告の主張は争う。
2 被告北口関係
(1) 本件会合における被告北口の発言は、原告の名誉を毀損するものであるか
【原告の主張】
被告北口は、本件会合において、被告会社の社員2名と柏木教授に対し、原告が人権問題を起こした企業を脅し、法外な値段で資料を売りつけたり、実体のないコンサルタントの名目で資金を受けとっているうえ、こうして得た資金を個人的に着服している、また、人権協会の調査を行ったところ、同協会について「エセ同和」的な行為が目に余ると判断した旨の発言をし、もって原告の名誉を違法に毀損した。
【被告の主張】
原告の主張のうち、被告北口は、「脅し」、「法外な」との表現は用いておらず、また、「こうして得た資金を個人的に着服している」との発言はしていない。その余は概ね認めるが、被告北口の本件会合における発言は、人権協会に関する事実を柏木教授に伝えることを趣旨とするものであり、原告個人に関する事実を述べたものではなく、殊更、原告の名誉を毀損するものではない。
(2) 違法性または故意・過失の不存在
【被告の主張】
仮に、柏木教授が、被告北口の発言を、原告個人に関する事実と理解したとしても、以下のとおり、被告北口の発言は、公共の利害に関する事実に関わり、公益を図る目的に出たものであり、かつ、その発言内容は事実に基づくものであるか、仮にそうでないとしても真実を信じるについて相当な理由がある場合であるから、違法性または故意・過失がない。
ア 被告北口は、柏木教授に対し、以下(ア)ないし(エ)の事実を指摘して、それに関する被告北口の見解を述べることにより、柏木教授に対し、人権協会の「エセ同和」ないし「エセ人権」行為あるいはそれに類する行為についての事実を知らしめ、そうした行為による被害や、あるいは逆に差別を助長するような事態の発生を防ぐ趣旨で発言したものであり、その公益目的は明らかである。
(ア) 人権協会は、協議会ないし連絡会の加盟企業から、以下の事情について多くの批判を受けていた。
① 人権協会と一体であった社団法人大阪国際理解教育研究センター(以下「KMJ」という。)の主催の就職セミナーを、連絡会の代表幹事であった株式会社関西電力(以下「関西電力」という。)が後援しないということを、「就職差別」だととらえて、平成13年4月16日、関西電力の本社前で、人権協会と一体の組織である全国在日コリアン保護者会(以下「保護者会」という。)名で「関西電力は就職差別をやめてください」等と記載されたビラを配布するとともに、座り込みを行って、不当な圧力を加え、業務を妨害したこと
② 同年6月15日に開催された協議会の設立20周年記念行事に際し、協議会が「就職差別企業集団」であるかのようなビラを会場前で配布し、記念行事を妨害するなどの行為をしたこと
(イ) KMJは、大手飲料メーカーの差別事件に関わって、当該飲料メーカーから、「集中研修期間研修指導料(コンサルタント料)」として、3年間にわたって毎月50万円の金額(合計1800万円)を受けとるなど、当該企業から余りにも多額の金員を受領していた。
(ウ) 人権協会は、差別事件を起こした企業(近畿日本ツーリスト株式会社及び株式会社ツーリストサービス〔以下、それぞれ「近畿日本ツーリスト」、「ツーリストサービス」という。〕)と確認書を交わし、両社から、1冊700円のテキスト(パンフレット)1万冊(合計700万円)、季刊「Sai」(年間2800円)350冊(合計98万円)、月刊新聞「在日コリアン人権協会ニュース」(年間3000円)349冊(合計104万7000円)、KMJの法人会員(1口4万円)10口(合計40万円)の代金を受け取るなど、余りにも多額の金員を受領していた。
(エ) 人権協会は、差別事件を起こした宗教法人天理教から、1冊700円のテキスト(パンフレット)約3万冊(合計2100万円)、季刊「Sai」(年間2800円)300冊(合計84万円)、月刊新聞「在日コリアン人権協会ニュース」(年間3000円)300冊(合計90万円)、KMJの法人会員(1口4万円)50口(合計200万円)の代金を受け取るなど、余りにも多額の金員を受領していた。
イ そして、被告北口は、上記ア(ア)の事実については、当該ビラ(乙3)、人権協会発行の機関紙(乙4)を入手し、上記ア(イ)ないし(エ)の事実については、当該企業から「KMJ関係」と題する書面(乙6の2)、「『人権問題研修』における在日コリアン人権協会との対応について」(乙6の3)等の書類の交付を受けたり、当該法人の関係者から事情を聴取するなど、いずれも根拠となる客観的な資料に基づいて、上記発言をしたものであるから、被告北口の発言に係る上記各事実は、いずれも真実であるか、仮に、真実でないとしても、被告北口がその旨誤信したことに相当な理由があるというべきである。
【原告の主張】
被告北口は、本件会合における発言が原告の名誉を毀損するものであるとしても違法性も責任もない旨の主張をするが、否認ないし争う。
被告北口の上記主張のうち、被告北口が主張するビラ配布、座り込みが行われたこと、人権協会ないしKMJが被告北口の主張する金員を受け取った事実は認めるが、当該事実についての評価は争う。
上記ビラ配布ないし座り込みは、在日コリアンに対する不当な就職差別を撤廃すべく正当な目的をもって行われたものであるし、人権協会ないしKMJが受領した金員も正当な対価に基づくものであって、「余りにも高額」な金員ではない。被告北口の発言は、いずれも事実を曲解したものである。
また、被告北口は、原告ないし人権協会の「エセ人権」的行為との評価の前提となる事実につき、当該企業ないし団体から「確認」した旨主張するが、「確認」とは双方からの調査が前提であるところ、被告北口が原告ないし人権協会から事情を聴取したことはなく、かかる被告北口の一方的な「確認」をもって真実であると信じたことにつき相当な理由があるとはいえない。
さらに、被告北口の上記発言は、同被告が過去に、原告から事件(いわゆる「日本生命事件」)のもみ消しを断られたことへの個人的恨みから、人権協会の社会的影響力をなきものとすることを目的としてされたものであり、公益を図ることを目的としたものでないことは明らかである。
(3) 原告の損害額
【原告の主張】
被告北口の名誉棄損行為により、原告の被った精神的被害に対する慰謝料は10万円を下らない。
【被告北口の主張】
原告の主張は争う。

第5 当裁判所の判断

1 認定事実
前記争いのない事実等、証拠([[甲1号証|甲1ないし11乙1ないし、[[丙1号証|丙1]、証人柏木同村瀬被告北口本人原告本人〈但し、原告本人については、後記措信できない部分を除く。また、ここでは、書証について、枝番号のあるものは、枝番号を含む。〉)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められ、これを覆すに足りる証拠はない。
(1) 被告会社は、同被告の神戸支店で平成9年ころに発生した差別問題を巡る被告会社と人権協会の事実確認会を契機として、平成11年ころから、被告会社の本店ないし関西支店において、人権協会の実質的な指導の下で、在日コリアンの人権問題に関する研修会を実施するようになった(弁論の全趣旨)。
被告会社は、平成14年11月14日ころ、人権協会との間で、概ね、春と秋の2回にわたって、上記研修会の実施を予定する旨の打合せをしていた(甲9証人村瀬・13頁、弁論の全趣旨)。
(2) 被告会社は、同被告の本社(平成11年7月3日、平成12年7月28日及び平成14年3月15日)ないし同被告の関西支店(平成14年1月31日及び平成15年2月19日)において、それぞれ、原告を講師として、在日コリアンの人権問題に関する研修会を実施した。上記各研修会の各講師料は、被告会社の本社で実施された研修会(平成11年7月3日、平成12年7月28日及び平成14年3月15日の各実施分)については、いずれも人権協会の口座に振り込む方法で支払われ、被告会社の関西支店で実施された研修会については、KJ同友会の口座に振り込む方法(平成14年1月31日実施分)ないし原告に現金を渡す方法(平成15年2月19日実施分)で支払われた(甲1)。
また、被告会社は、平成15年7月18日、同被告の本店において、研修会を実施し、過去の差別事件の事実確認等を行った(弁論の全趣旨)。
(3) 被告会社の村瀬は、平成15年10月1日ころ、人権協会の副会長である原告との間で、同年12月ころに実施予定の本件研修会において、原告及び柏木教授の2人を講師とすることを打合せていたが、同年11月13日ころ、原告及び柏木教授に対し、本件研修会を中止する旨伝えた(証人村瀬、弁論の全趣旨)。
(4) 原告、人権協会の事務局員、柏木教授及び被告会社の社員である村瀬は、平成15年12月1日、大阪市立大学大学院梅田サテライト控え室において、会談した。村瀬は、同会談において、原告及び柏木教授らに対し、被告会社が本件研修会を中止した経緯等について説明したところ、柏木教授は、村瀬の説明の中で、被告北口の名前が出たことから、被告北口からも説明を聞くべく、柏木教授、被告北口、原告、被告会社の4者間で会合をもつことを提案したが、上記会談後、被告北口から原告と同席することを拒否されたため、原告を除いた3者間で会合をもつことになった。その後、被告北口は、柏木教授に対し、上記会合に人権協会の元副会長であった宋貞智を同席させることを提案したが、柏木教授はこれを断った(甲2証人柏木証人村瀬)。
(5)
ア 被告北口、柏木教授、被告会社の藤田総務室長及び村瀬の4名は、平成16年2月17日、大阪市浪速区久保吉所在の大阪人権センターにおいて、本件会合をもった。村瀬は、本件会合において、柏木教授に本件研修会を中止した経緯及び理由等を改めて説明した。
イ 本件会合において、被告北口は、柏木教授に対し、以下の内容の書類を示した。
① 「『在日コリアン人権協会』の組織正常化に向けての訴え」と題する書面(甲4
② 「寄稿について」と題する書面
甲4と同内容の電子情報をインターネット上でダウンロードしたもの(甲6
③ 「『エセ同和』対策10原則」と題する書面(甲8
④ ビラ(保護者会が平成13年4月16日に関西電力本社前で配布したもので、「関西電力は就職差別をやめてください」等の記載がある(乙3)。
⑤ 「在日コリアン人権協会ニュース」(2001/5/1 60号)
保護者会が平成13年4月16日に関西電力本社前で座り込みを行った旨の記載がある(乙4)。
⑥ ビラ
保護者会が平成13年6月15日に実施された協議会の設立20周年記念行事の際に、会場前で配布したもので、「大阪企同連は就職差別をやめてください」等の記載がある(乙5)。
⑦ 「KMJ関係」と題する書面
キリンビールがKMJに集中研修期間研修指導料〔コンサルタント料〕として、1996年から1998年までの3年間に月50万円の合計1800万円を支払う旨の記載がある(乙1)。
⑧ 人権協会と近畿日本ツーリスト及びツーリストサービスとの間の確認書(乙6の1
⑨ 「確認書に基づく実施計画」(乙6の2
⑩ 「『人権問題研修』における在日コリアン人権協会との対応について」
近畿日本ツーリストないしツーリストサービスが人権協会から、テキスト〔1冊700円〕を合計1万冊(近畿日本ツーリストが9000冊、ツーリストサービスが1000冊)、季刊「Sai」(年間2800円)を合計350冊(近畿日本ツーリストが270冊、ツーリストサービスが80冊)、月刊新聞「在日コリアン人権協会ニュース」(年間3000円)を合計349部(近畿日本ツーリストが270部、ツーリストサービスが79部)、研修ビデオ(1巻5万円のものを近畿日本サービスが2巻、1巻2万円のものをツーリストサービスが1巻)を各購入するとともに、KMJの法人会員(1口年間4万円)に合計10口分(近畿日本ツーリストが8口、ツーリストサービスが2口)に加入すること等の内容が記載されている(乙6の3)。
ウ そして、被告北口は、上記の資料を示しつつ、以下の事実を指摘した。
① 人権協会ないしKMJが、過去に差別事件を起こしたことのある企業(キリンビール、近畿日本ツーリスト及びツーリストサービス)ないし宗教法人(天理教)のうち、キリンビールからコンサルタント(原告によれば研修指導料)の名目で1800万円(月50×3年間)を受け取ったこと、また、近畿日本ツーリスト、ツーリストサービス及び天理教に対し、テキスト(1冊700円。近畿日本ツーリストが9000冊、ツーリストサービスが1000冊、天理教が約3万冊)、季刊「Sai」(年間2800円。近畿日本ツーリストが270冊、ツーリストサービスが80冊、天理教が300冊)、月刊新聞「在日コリアン人権協会ニュース」(年間3000円。近畿日本ツーリストが270部、ツーリストサービスが79部、天理教が300部)、研修ビデオ(1巻5万円のものを近畿日本ツーリストが2巻、1巻2万円のものをツーリストサービスが1巻)を購入させ(以下、上記購入に係る物品を「テキスト等」と総称する。)、さらに、KMJの法人会員(1口年間4万円。近畿日本ツーリストが8口、ツーリストサービスが2口、天理教が50口)に加入させるなどして、多額の金員を受け取っていること、
② 人権協会ないしKMJが受け取った金員等につき、その出所・金額・使途等の説明が人権協会の理事会で会計報告されていないこと等から、人権協会の資金面が「灰色」である等の批判が人権協会内部から出ており、また、上記各書面(甲4)が連絡会ないし協議会の加盟企業宛に配布されていること、
③ 人権協会と関係のある保護者会が、KMJの開催する就職支援セミナーを関西電力が後援しなかったことを差別だととらえて、関西電力の本社前でビラ(乙3)の配布及び座り込みを行い、また、協議会の設立20周年記念行事の際に、協議会が差別集団であるかのようなビラ(乙5)を配布したが、このこと等について、連絡会ないし協議会から多くの批判がされていること
エ その上で、被告北口は、人権活動において、差別を行った企業等から金銭を授受するようなことはあってはならず、また、後援しないことが差別であるとして後援を行うよう圧力をかけることには問題があるとの自己の見解を述べて、上記ウ①ないし③のような人権協会の行為等は、「エセ同和」ないし「エセ人権」的な行為となりかねない旨の発言(以下、被告北口の本件会合における発言を「本件発言」と総称する。)をして、人権協会に関する被告北口の認識を説明した(甲2乙2証人柏木被告北口)。
2 争点1(1)(本件契約の当事者)について
(1) 原告は、被告会社との間で、平成14年11月14日、毎年春に、被告会社の関西支店とKJ同友会会員との合同学習会、交流会を行い、毎年秋には、原告を講師に招いて、講演1回につき、講師料10万円との約定で、被告会社の支店トップ層(幹部)の学習会を行うことを合意したとして、原告が被告会社との間で直接講師契約を締結した旨主張し、これに沿う陳述書(甲3)を提出し、また、平成15年10月1日に、同年12月ころに実施予定の研修会で原告を講師とする契約が締結された旨の供述をする(原告本人・24ないし26頁)。
しかしながら、原告の上記主張を裏付ける的確な証拠はない上、前記1(1)の認定のとおり、被告会社で実施されるようになった在日コリアンの人権問題に関する研修会は、平成9年に行われた被告会社と人権協会の事実確認会を契機とするもので、その内容につき人権協会が指導的役割を果たしているのであり、かかる事実経緯に照らせば、研修会で行われる一プログラムである講演について、人権協会との間とは別に、被告会社と原告個人との間で、包括的な講師契約が締結されるとは考えがたい。むしろ、被告会社で実施された過去の研修会において、原告が行った講演の講師料が、平成15年2月19日実施分を除くほか、人権協会ないしKJ同友会の口座に振り込む方法で支払われていること、研修会の開催実績について記載されたファクシミリ文書(甲1)の宛先が人権協会宛になっていること、平成15年2月19日実施の研修会についても、被告会社が社内で作成した「在日コリアン人権協会人権啓発研修会について(案)」と題する書面(丙1)において、講師料の支払先が人権協会になっているなど、講師契約の相手方が人権協会であることを前提とする旨の記載になっていることからすれば、本件研修会を含む研修会における被告会社との間の講師契約の当事者は原告個人ではなく人権協会というべきであり、被告会社の担当者は、研修会に関する打合せ等において、人権協会の副会長としての原告と折衝していたにすぎないものというべきである。
(2) なお、原告は、平成15年2月19日実施の研修会における原告の講師料が原告個人に直接渡されていること、同日実施分の講師料の支払先が原告個人に変更されたことにつき被告会社から何ら質問がなかったことから、同日以降に実施された研修会における被告会社から間の講師契約の当事者は人権協会ではなく原告個人である旨主張する。しかし、講師料の支払先が原告個人となったからといって、それだけで直ちに契約当事者が人権協会から原告個人に変更されたものとはいえず、講師料の支払先の変更の一事をもって、原告個人と被告会社の間で、別途講師契約が締結されたものとはいえない。
また、原告は、最終的に、平成15年10月1日に、被告会社との間で、本件研修会で原告を講師とする契約が締結された旨の供述をするが、これを裏付ける的確な証拠はなく、むしろ、前記1(3)の認定事実のとおり、平成15年10月1日に行われた村瀬と原告との打合せは、同年12月に実施予定の本件研修会において、人権協会が原告と柏木教授の2人を講師として講演を行うという予定の打ち合わせたものにすぎず、かかる打合せをもって、被告会社と原告個人との間で、別途、原告個人を一方当事者とする講師契約が締結されたものということはできず、原告の上記供述も採用することができない。
したがって、上記認定に反する原告の主張はいずれも採用することができない。
(3) よって、その余の点につき判断するまでもなく、原告の被告会社に対する請求は理由がない。
3 争点2(本件会合における被告北口の発言は違法に原告の名誉を毀損するものであるか)について
(1) 原告は、被告北口が、本件会合において、被告会社の社員2名と柏木教授に対し、原告が人権問題を起こした企業を脅し、法外な値段で資料を売りつけたり、実体のないコンサルタントの名目で資金を受けとっているうえ、こうして得た資金を個人的に着服している、また、人権協会の調査を行ったところ、同協会について「エセ同和」的な行為が目に余ると判断した旨の発言をし、もって原告の名誉を違法に毀損したと主張する。
(2)
ア 前記1(5)のとおり、被告北口は、本会合において、柏木教授及び被告会社の社員2名に対し、「『在日コリアン人権協会』の組織正常化に向けての訴え」と題する書面(甲4)や「寄稿について」と題する書面(甲6)等の書面を示しつつ、概ね、①人権協会ないしKMJが、過去に人権問題を起こしたことのある企業(キリンビール、近畿日本ツーリスト及びツーリストサービス)ないし法人(天理教)のうち、キリンビールからコンサルタントの名目で1800万円(月50万円×3年間)を受け取るとともに、近畿日本ツーリスト、ツーリストサービス及び天理教に対し、テキスト等を購入させ、また、KMJの法人会員(1口年間4万円、近畿日本ツーリストが8口、ツーリストサービスが2口、天理教が50口)に加入させるなどして、多額の金員を受け取っていること、②人権協会ないしKMJが受け取った金員等につき、その出所、金額及び使途等の説明が人権協会の理事会で会計報告されていないこと等から、人権協会の資金面が「灰色」であるとの批判が人権協会内部から出ており、また、上記各書面(甲4、6)が連絡会ないし協議会の加盟企業宛に配布されていること、③人権協会と関係のある保護者会が、KMJの開催する就職支援セミナーを関西電力が後援しなかったことを差別だと捉えて、関西電力の本社前でビラ(乙3)配布・座り込みを行ったり、協議会の設立20周年記念行事の際に、ビラ(乙5)を配布したこと等につき、連絡会ないし協議会から多くの批判がされていることを指摘した上で、人権活動において、差別を行った企業等から金銭を授受するようなことはあってはならず、また、後援をしないことが差別であるとして後援を行うよう圧力をかけることには問題があるとの自己の見解を述べて、上記のような人権協会の行為は、「エセ同和」ないし「エセ人権」的な行為となりかねない旨の発言を行ったことが認められる。
イ かかる被告北口の発言内容や柏木教授らに示した資料(甲4)の内容に照らせば、被告北口は、人権協会ないしKMJが差別事件を起こした企業等からコンサルタント料、テキスト等の購入代金及びKMJの法人会員費等を受領していたこと、人権協会の内部から同協会の資金面が「灰色」であるとの批判が出ていること、人権協会と関係のある保護者会が行ったビラ配布ないし座り込みに対し、連絡会ないし協議会から批判が出ていること等の事実を示すことによって、人権協会が行った行為が「エセ人権」ないし「エセ同和」的な行為となりかねないとの認識を表明していると認められ、被告北口の本件発言は、人権協会についての問題点を指摘・批判することに主眼があったというべきである。
ウ もっとも、柏木教授は、被告北口の本件発言において、原告の個人名が挙げられ、人権協会と原告個人の名前が「インターチェンジブル」に出ていたことから、人権協会と原告個人が一体であるかのような印象をもった旨供述する(証人柏木・10、12頁)。そして、原告が人権協会を実質的に指導し、同協会の副会長の立場にあることからすれば、人権協会への批判は、原告個人の言動にも向けられたものとみる余地があるというべきである。
(3) そこで、本件発言が原告の名誉を違法に毀損するものか否か(争点2(1)、(2))について検討を進めることとするが、仮に、被告北口の本件発言によって、原告の社会的評価が低下する余地があるとしても(また、本件発言が公然とされたものであるとしても)、被告北口が本件発言において摘示した事実は概ね真実と認められ、いわゆる「公正な論評」にあたるものであるから、違法性が阻却されるというべきである。すなわち、
ア 本件発言は、被告会社が在日コリアンの人権に関する本件研修会を中止した経緯、理由等を、本件研修会の講師に予定されていた柏木教授に説明するにあたって、人権協会に関する問題を指摘し、人権活動において金銭の授受がされたり、差別でないことを差別と主張することで、逆に、差別が助長されかねない等の自己の見解を述べることで、あるべき人権活動について批判ないし論評するものであって、本件発言が、公共の利害に関する事実に係るとともに、在日コリアン又は部落社会に対するあるべき人権活動に関する見解を述べるという公益目的が含まれていると認められる。
イ また、本件発言のうち、前記1(5)ウ①(人権協会ないしKMJが、過去に差別事件を起こしたことのある企業等から、コンサルタント料、テキスト等の購入代金ないしKMJの法人会員費等の金員を受け取っていること)については原告自身認めている(原告本人・13頁、弁論の全趣旨)。また、同②(人権協会ないしKMJが受け取った金員等につき、その出所、金額及び使途等の説明が人権協会の理事会で会計報告されていないこと等から、人権協会の資金面が「灰色」である等の批判が人権協会内部から出ており、各書面〔甲4〕が連絡会ないし協議会の加盟企業宛に配布されていること)及び同③(人権協会と関係のある保護者会が、KMJが開催する就職支援セミナーを関西電力が後援しなかったことを差別だととらえて、関西電力の本社前でビラ〔乙3〕の配布・座り込みを行い、協議会の設立20周年記念行事の際に、ビラ〔乙5〕を配布したこと等につき、連絡会ないし協議会から多くの批判がなされていること)についても、各書面(甲4乙3)の記載内容や、被告北口の供述及び弁論の全趣旨によって容易に認められるのであり、本件発言に係る意見ないし論評の前提としている事実が重要な部分について真実であることの証明があったものということができる。
なお、上記②に関して、人権協会ないしKMJが差別事件を起こした企業から多額の金員を受け取っており、かかる金員を含め人権協会の資金面が「灰色」である等の批判が人権協会内部から出ており、原告個人の責任を問う声が人権協会内部から出ている旨指摘したとしても、本件発言に至る経緯からすれば、このことが直ちに、原告が人権協会の資金を個人的に流用していると指摘するものであるとまでは認めがたい(柏木教授も、得た資金を原告が個人的に着服しているとの陳述書の記載〔甲2・9項〕について、人権協会と原告個人の関係がはっきりしないという意味での発言であった、あるいはニュアンスとしての発言であったと供述するにとどまる(証人柏木・10頁から12頁)。
ウ 本件発言は、前記1(5)ウ①ないし③の行為等を踏まえて、そのような活動を「エセ同和」ないし「エセ人権」的であると論評しており、その表現は人権問題に取り組む活動家である原告に対しては強烈な表現をもった批判であるとしても、本件発言を全体的に考察すれば、原告個人に対する人身攻撃に及ぶなど論評としての域を逸脱しているとまではいえない。
エ この点、原告は、被告北口の本件発言は、同被告が過去に、原告から「日本生命事件」のもみ消しを断られたこと等への個人的恨みから、人権協会の社会的影響力をなきものとすることを目的とするもので、公益目的を欠く旨主張するが、これを裏付ける的確な証拠はないし、上記に説示したように、本件発言がされるに至った経緯等からすれば、被告北口に他の何らかの目的があったとしても、本件発言から公益目的が失われるものではなく、原告の主張は理由がない。
また、原告は、人権協会ないしKMJが受け取った金員は正当な対価に基づくもので、実体のないコンサルタント料の名目で金員を受け取ったものでも、また、「余りにも高額」なものでもなく、保護者会が行ったビラ配布ないし座り込みは、在日コリアンに対する不当な就職差別を撤廃すべく正当な目的をもって行われたものであり、被告北口の発言はいずれも事実を局解したものであると主張する。しかし、かかる原告の指摘は、いずれも本件発言内容の当否に関わるものにすぎない。
(4) よって、その余の点につき判断するまでもなく、原告の被告北口に対する請求は理由がない。
4 結論
以上によれば、原告の主張はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。

大阪地方裁判所第22民事部

裁判長裁判官 小西 義博

裁判官 岡山 忠広

裁判官 高見 進太郎

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